すべてが、想い人に見える 投稿者:Mari

これは私の知人のA子の話です。
A子はかなりの美人で、性格もよく、二十代前半。
それなのに、恋愛面では不幸な思いばかりをしていました。

「私、彼氏ができたの!!」
 そんなA子が、心底うれしそうに報告してきたのは、一昨年の秋のことでした。
なんでも、彼氏は年上の医師で、包容力のある男性なんだとか。

 私は、A子が幸せになれたことを、もちろん祝福しました。ところが、よくよく話を聞いてみると、A子の彼氏には、本命の彼女がいて、A子は、二番手の女のようでした。
「本命の彼女面してるのが厄介なやつで、なかなか別れられないらしいんだけど、彼氏は、必ず私と結婚してくれるって言ってるから」
 そう、自信たっぷりにA子は言っていました。

 しかしというかやはりというか、彼氏はなかなか、本命の彼女と別れませんでした。
 業を煮やしたA子は、ありとあらゆる手段で二人を別れさせようとしましたが、うまくいかなかったようです。

 そこでA子が選んだ手段は、とある神社で呪いをかけることでした。
 その神社は、一年間、一番好きなものを我慢すれば、どんな呪いでも叶うという伝承がある神社。
 A子の一番好きなものは彼氏ですから、彼氏と会うことを一年間我慢するかわりに、彼氏と本命の彼女を別れさせてくれと願ったようです。

 しかし、それだけ執着している相手に、一年間会うことを我慢するというのも、無理があります。
 A子は、数ヶ月もしないうちに彼氏と会ってしまったそうなんです。
「彼氏に別れてくれって言われた」
 A子が号泣しながら電話をかけてきたのは、その直後でした。
 神社の呪いは、一年間の我慢ができなければ、呪い返しがくるという伝承もあったのです。

 A子に対する呪い返しは、彼氏と別れるだけではすみませんでした。まず、勤め先が倒産し、身内が次々と倒れ、A子自身も、さまざまな病気にかかってしまいました。
 挙げ句の果てに、精神を深く病んでしまい、某病院の閉鎖病棟に入院することに。それが昨年末の話で、病院からかけてきたらしき、A子からの電話は、今でも忘れられません。

「あのねぇ、ここには、A子のだぁいすきな人がたくさんいるんだあ」
 ろれつの回らない口調で、それだけを言い続けていました。

 ……そういえば、A子の彼氏は、医師でした。A子には、すべての医師が、彼氏に見えているのかもしれません。

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