「片棒を担ぐ」 投稿者:マシンガンジョー

昔、おじさんの家に行くとやらされていたことがあった。
「今思えばあれは呪いをかけさせられていたのかなと思うんですよ」

戸田さんとします。

よく、おじさんの家に来ると二階にある六畳の和室に連れてこさせられ、
ボロきれで作られた150センチほどの粗末な人形に向かって、
「死んでください」と祈らされることがあったのだという。

人形には、誰かの写真があって、
それは女性だった。
その女性は見たことがなかったが、わりかしきれいな若い女性だったのを覚えている。

それから何週間かして、
同じように二階で、お祈りをしていると、
隣の部屋から女性の遺体が見つかったとちょっとした騒ぎになった。

それから、何年かして、
おじさんと隣人の女性とは不倫関係にありそれがこじれていたんだと知る。
母親は、おじさんを毛嫌いしていたので皮肉るように、
「恥さらし」みたいに呼んでいたのだが、
やがておじさんも行方が知れなくなってしまう。

あとになって気づいたが、あれは呪いだったのではと思ったが、
最初こそ何も知らずにやっていたが、面倒になり適当にやっていたのでそのせいで呪ったおじさんの身に何か起きたのではないかと思ったのだが、おじさんは未だ見つからず、自分にも何もないのだというが、あとになって、隣人の部屋からおじさんの部屋にあったのと同じような人形が見つかったという。

だから互いに呪いあっていたのではないかと戸田さんは推測している。

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校舎の少女 投稿者:ハト吉

この話は私の知り合いのAさんの中学時代の実話です。
このAさんは代々ある程度の霊感があるらしくその例に漏れずAさん自身にも霊感があり、昔から見える、感じるということが多々あるそうでした。
なので多少の心霊現象には耐性があるそうでした。

そんなAさんがある日、中学の部活で帰宅が遅くなってしまった時です。
もう日が沈み、辺りには街灯が灯っているような時間帯に、真っ暗な体育館に人影が見えたのです。
最初は見廻りの先生だろうか・・・?と、思ったのですがにしては身長が低い。

おかしいと思ったAさんの目が暗闇に慣れてきた時、それが先生などでは無く少女だと気付いたのです。
その少女は小学校低学年くらいで赤いカッパを着ていたのですがその少女と目が合った瞬間、一瞬にしてAさんは青ざめました。

首が横に90度以上回っているのです。
Aさんはダッシュで自分の自転車に乗り、家に向かいました。
すると、学校側からまるでAさんを追いかけるかの様に灯っていた街灯がフッ…と消えていくのです。
だんだんと背後に街灯が近づいて追いつかれそうになった瞬間、人気の多い街中に出たのです。
振り返ると先程まで消えていたはずの街灯は何事も無かったかの様に暗い夜道を照らしていたのです。
それからAさんはその少女を見ることはありませんでした。
それから10年以上経った今でもAさんはその少女のことを時折思い出すそうです。

目が合った時にとても嬉しそうな表情を浮かべたその少女を。

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事故物件 投稿者:椿のの

「ののちゃん、よくこんな部屋に住めるね」

引っ越し早々、隣の奥さんに言われた台詞なのだがこれが全てを変えた。

私は九州地方の田舎町から上京進学をした。見慣れない土地に目を見張るばかりの都会の景色。私にとって見るもの全てが新鮮で刺激的だった。
親元を離れて一人暮らしを始めるのだが、都内の物件は高い。最低でも10万円する。
いくら親の支援があっても毎月高額な家賃ではいつかは潰れてしまう。
そんな時に不動産屋の担当者がこう切り出した。

「掘出しの物件があるんです」

聞くと都内のあるマンションの一室。18畳のリビングに10畳の洋室。お手洗いと浴室は別で、しかも駅から徒歩5分。こんな好条件物件が4万円。
怪しさは満点だが、担当者からは「床が傾いてるんです」と言われて納得して借りた。

その翌日があの冒頭の台詞に繋がる。
奥さん曰く、10畳の洋室で女性が首を吊って自殺しているのだという。
私は不動産屋に駆け込んだ。

「どうされたんですか?」

あの時の担当者が出てきたので説明すると

「説明されましたが?」

と驚きの返答。私はそこまで記憶力に低下はみられない。

「聞いてません!」

そう言うと間取り図を出してきた。そこの部屋の説明欄を指さして

「ここにございますよ」

小さい文字で『告知事項あり』と書いてあった。

こうして私は半ば詐欺に遭って通称『事故物件』に住むことになったのだがこの日を境に妙な事が起きるようになった。
勝手にシャワーが出ている。誰もいない筈の玄関に人影。あげたらキリがない。
そんなある時に
(心霊写真って撮れるのかな)
と思い、デジカメを用意した。中にはデータなんて入っていない筈なのに何故か一枚だけ写真が入っていた。
顔が歪んだ女性の顔のアップの写真だった。しかもエアコンなど見えることから私の家の中で撮っている。撮影日は入居の日だった。
後にこの女性が自殺した前の入居者と知るのはまた後の話。

私はまだこの部屋に住み続けている。

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ご本人より、お話に出てきた実際のお写真を頂戴しております。
※スクロールでご覧いただけます。自己責任でご覧ください。

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叔父さん 投稿者:MOCOTTOY

これは私がまだ中学生の頃に体験した本当の話です。

当時、はやり風邪を患ってしまい、熱は下がり体力も回復してきていたのですが、大事を取りその日はゆっくりと過ごすように両親から言われ学校を休むことになりました。
当然家族は仕事や学校に行っており家には私一人、そんな時間を淋しくもあり有意義にも感じながら過ごすことになりました。
12時になり、母が用意してくれていたお昼ご飯を食べ風邪薬を飲んで少し横になり漫画などを読んでいました。

漫画を読み終えやる事がなくなって少しぼ~っと天井を眺めていました。
壁にかかった時計を見ると13時40分…15時過ぎには母が帰ってくるかな?などと考えていると「ピキッ!」っと耳元で何かが折れるような弾けるような音が鳴ったかと思うと体が全く動かなくなってしまいました。
ただ目だけは動くようで視界に入る範囲は見渡すことができました。
「いったい何が起こったのだろう?」と不安になっていると「ズズ…ズズズ…」っと何かを引きずるような音が足元のほうから聞こえてきたのです。

足元の布団が少しふわっとあいたような感覚とともに私の足を何かが触っているような感覚がありました。
足首…ふくらはぎ…膝…腰…その感覚はゆっくりと私の胸元のほうまで上がってきました。
怖いという感覚もありましたが私は目線を胸元に向けてみました。
そこには坊主頭の血の気が全くない顔の男性が私をじっと見つめていました。
「家のカギはかかっているしもちろん誰も入れる状態じゃない…それよりも誰?見たことのない人!」など少しパニックになりながら、助けを呼びたくても声も出せない状態です。
その男性と目を合わせたままどのくらいかの時間がたったかわからないでいると、男性がすごく悲しそうな顔をして涙を流しスッ…と消えていきました。
それと同時に私の体も動くようになりすぐにベッドから出てリビングへ向かうとちょうど母が帰ってきました。
私を心配して仕事を早めに切り上げてきてくれたそうでした。
私は母に一部始終の出来事を話しましたが信じてもらえず、やはり玄関にはカギはかかっていて母が帰ってきたときも誰もいなかったとのことでした。

それから数日たって母に話を聞いていた祖父が1枚の写真を私に見せてくれました。
そこにはあの坊主頭の男性が映っていて驚きました。
その男性は、父の弟にあたる方で25歳の時に亡くなっているそうです。
父の弟さんは大工修行をしていたらしくその時事故にあい半身不随になってしまったそうです。
当時、結婚を約束していた女性がいたらしいのですが事故で体が悪くなってしまった事と時代のせいもあり、親同士が破局させたそうで…それを苦にして自から命を絶ってしまったそうです。
あの時、叔父さんが消える前に見せた悲しそうな顔はつらかったことや悲しかったことを私に伝えたかったのでしょうか?

あの日以来叔父さんが私の前に現れることはありませんが、叔父さんの悲しそうな顔は今でも覚えています。
叔父さんが少しでも安らかに眠れるように今でもお墓参りを欠かさずに行っています。

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お母さん 投稿者:赤い雨

私とお母さんは大の仲良しだった。
2人で映画を見たり、LINEで毎日会話するほどの仲良しだった。
しかし、先月の交通事故により私のお母さんは亡くなってしまった。

私はお母さんの遺品を片付けていると突然携帯が鳴った。
誰かな?と思い確認してみるとそこには、お母さんの名前が
恐る恐る内容を確認してみると
「ごめんね、1人にさせちゃって。もう1人にさせないから」
メッセージを見た途端に誰かに監視されている気分になった。

その時LINEからお母さんからのメッセージが、
「今どこにいるの?」
メッセージを見て直ぐに私は家のカーテンを閉めた。

その時
「今カーテン閉めたよね?家にいるの分かっているよお母さんだから」
私は恐怖のあまり私は家から飛び出し、私の車に乗った。

私は自分の家まで車で戻ったとき急いでたため、その時携帯が鳴っているのに気づかなく、心を落ち着かせようと風呂に入った。

風呂から上がったときお母さんからのLINEに気づいた。LINEには
「今あなたの家にいるでしょお母さんはあなたの事が全て分かるわ少し待っていて」
気づいた時にはもう遅かった。
家の玄関から誰かが入ってきたことが分かった。

そこには、お母さんとは似てない女性の人が
「お母さんと一緒に帰るよ」

その後その親子を見たものは居ない

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幽霊の世界 投稿者:R

ホラー映画や体験談を見ていて不思議に思うことがあります。
海外では悪魔ベースの幽霊や外国人の軍人などが多いのに対し、日本では貞子系の髪が長い女性ベースの幽霊や日本軍人などが多い点です。
映画は作り物なのでまだわかるとしても、実体験系であっても幽霊に違いがあるのはなぜなのでしょう?

また、自身(生きている側)が日本人であっても、海外に行くと現地の幽霊を見たという体験談が多く、逆に外国人は日本では侍や鎧を着た武者などの幽霊を見たという体験談が多かったりするのは幽霊にも国境があるからなのでしょうか…?
それとも、幽霊にも縄張りがあってお互いに不可侵になるように行動している?
知っている場所でしか行動できないような何か制限がある?
見た目も生前の状態から変えることができない?

もし私が幽霊になったら、身体の縛りがなくなる分どこへでも行ける=真っ先に行ったことのない海外や見たことのない場所に行こう!と思っているのですが、死んで魂だけになったからといってどこへでも行けるわけではないのでしょうか。
それに着たことがない服に着替えたり、見た目も好きなように変えたり、肉体があるときには出来ないことをしてみたい!と思っているのですが、もし魂だけになっても変わらないのであればなんだか夢がないな、なんて思ってしまいます。

死は自由、という考え方もあるようですが結局自国や自分の生前行動していた範囲でしか活動できないのであれば不自由な存在に感じます。

それに、死者は歴史の年数だけいるはずですが、幽霊になれる魂となれない魂には何か差があるのでしょうか?
もし全員が死後の世界に行くのであれば、今生きている世界よりもかなり多くの世代・人数がいることになります。この世に全員がいるとするなら、みっちみちの大渋滞ですよね。

幽霊の世界にも、ルールや制限があるのでしょうか?
…謎は尽きません。

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山中の車内にて 投稿者:冥賀小夜日

私の母が大学生だった時分に、同じサークルのメンバーに起きた出来事です。

***

ある夏休みの日、A子さんはサークルの先輩に呼び出されて男女4人でドライブに行くことになりました。
車の持ち主でもある男の先輩が運転し、助手席にA子さん、後部座席にA子さんと同期のB君とC子さんを乗せて地元にある山へ向かいました。
その先輩は、よく後輩を呼び出しては行く当てもなくドライブをしていたそうです。
免許を取ったばかりで自分の車を持てたことが嬉しくて、とにかく運転したい年頃だったのだと思います。
A子さんをはじめ後輩たちも、時間を持て余した大学生の夏休みですから、コンビニでお菓子を買い込んで車に乗り込み一緒に楽しんでいました。

その日も、車で山道を探索しながら「こっちの道には何があるんだろう?」「この先はどこに続くんだろう」と4人でお喋りしてドライブを楽しみました。

ところが、坂道を上っているところで急に車が減速し始め、何もないところで止まりました。

「あー、しまった。遂にやっちゃったよ」

先輩が舌打ちをしながら頭を抱えました。
どうやら、ガソリンが切れて車が動かなくなってしまったということでした。
先輩はルーズなところがあり「ガス欠になってるの気づかなくてギリギリ危なかったわー」とよく笑い話にしていました。

「ええー、先輩ついにガス欠で車止めちゃったんですかあ?」
「今までギリギリセーフだったんだけどなあ、ついにやっちゃったなあ」

B君が先輩を笑い、先輩も「やっべー」と言いながら軽く笑っていました。
心配性なA子さんは、こんな山の中で車が動かなくなったことに不安を覚えたのですが、他の三人は笑い話が一つできた、という位にしか考えていないようでした。

「え? え? 先輩、どうするんですか、こんな山の中で」
「ああ、大丈夫だって、山に入る前にガソリンスタンドあっただろ? ちょっと行って相談してくるわ。電話も借りられるだろうし何とかなるっしょ」
「え、でも歩いていくと結構な距離がありますよ……」
「まあ、行かなきゃどうしようもないしさ。ちょっと待っててや」

確かに、山のふもとにガソリンスタンドがありましたが、そこを通過してもう三十分以上は車で走っています。
とはいえ、携帯電話がまだあまり普及していない当時、公衆電話も山に入ってからは見かけていません。

「女性だけで残すわけにもいかんし、Bもココで待ってて」

そう言って、先輩は車の鍵をB君に預けて一人でガソリンスタンドへ向かいました。
A子さんと後部座席の二人は同じサークルの同期で仲が良かったため、待っている間はお喋りをして退屈はしませんでした。
先輩が車を出てからしばらく、時間の経過とともに日が傾いてきます。

「ねえ、話しづらいし後ろ行っていい?」

あたりが暗くなり始め、助手席のA子さんは心細くなって後部座席へ移動しました。
もともと車の往来が少ない道ということもあり、日没とともに他の車は一切通らなくなりました。

「ここ外灯ないから、日が落ちたらほんとに真っ暗になるよね」
「そうだよな……先輩、もう山下りた頃かな」

ずっと楽観的だったB君とC子さんもさすがに心細くなってきたようで、だんだんと元気がなくなりました。
予想通り、日が落ちると窓の外は真っ暗になり、車中の三人ですらお互いの顔が見えないほどほぼ完全に視界を失い、外から聞こえるセミの鳴き声がやたらと大きく聞こえました。

コンコン

「きゃっ!」

ふいに車のドアがノックされてA子さんは思わず声を上げました。

「ちょっとA子、なにビビってんの」
「も、まじ先輩やっと戻ってきたんっすかー」
C子さんはホッとしたように笑い、B君も安堵の声を出します。

コンコン

車の後部座席、A子さんが座っている側のドアが再びノックされます。
窓の外は真っ暗で、ドアをノックする人物の姿を確認することはできません。

「先輩ですよね?」

A子さんは車の外に向かって話しかけました。

コンコン

外の人物は応えません。

「先輩、ちょっと冗談やめてくださいよ。まじ何も見えなくて怖いんで」

コンコン

B君も笑いながら話しかけますが、声色には不安が混じっていました。
それでも、外の人物は返事をしません。

ガチャガチャ

「ひっ!」

外の人物が、車のドアを開けようと激しく取っ手をつかむ音がしました。
A子さんは助手席から後部座席へ移った際、何気なく鍵をかけたことを思い出します。
そして、このドア以外の鍵はおそらく開いたまま――

ガチッ

A子さんは、とっさに身を乗り出して手を伸ばし、助手席の鍵をかけました。
ほぼ同時に、助手席のドアがガチャガチャっと激しく鳴りました。

「そっちのドアと運転席のカギかけて!」

慌てて反対側に座っているB君に声をかけると、意図を察してB君もすでに動いていました。

ガチャガチャ

今度は、運転席のドアが激しく音を立てます。
それから、B君の側のドアも――。

ガチャガチャ

ゴンゴン

ゴンゴン

四方のドアが開かないと分かると、先ほどのノックより強く激しく、車のドアが叩かれます。

いま外にいるのは、先輩じゃない。

三人はそう確信していました。

ゴンゴン

ゴンッ――

苛立ったように、大きく車を叩く音が聞こえ、再び静寂が戻りました。
三人は息をひそめて、身を寄せ合って縮こまっていました。

「どっか行ったかな?」
「分かんない……」
「まだ居るかも」

誰も、外に出て確認しようとは言い出しませんでした。
まだ車のそばにいるかもしれない、ドアを開けた瞬間にアイツが入ってくるかもしれない、だから絶対に鍵を開けることすらしたくない、そう思い身動きがとれなくなっていました。

腕時計の数字すら見えない暗闇の中、時間の経過も分からず、三人は緊張感と恐怖で何も話せなくなりました。

ゴン

「うわあ!」
「きゃあ!」

その時、再びドアを叩く音が聞こえました。
心臓が跳ねるほど驚き、音がしたA子さん側のドアを見ます。

ノックではなく、一度だけ、低くて重い音がして、また静かになりました。

「……先輩?」

絞り出すようにA子さんが訪ねますが、返事はありません。

「動物でも、ぶつかったのかな?」

暗闇でB君の声が聞こえました。

ゴン

「ひゃっ」

その瞬間、再びドアを叩く音がしてB君の体が跳ねた振動が伝わってきました。

ゴン

……

ゴン

「ねえ! なにこれ!? 本当に動物!?」

ドアを叩くような音は、間隔を開けて、何度も鳴ります。

ゴン

「絶対ちがうよねぇ!? こんなの動物じゃないよねえ!?」
「分かってるよそんなこと!」

ゴン

半狂乱でC子さんが叫びだし、B君も苛立った声で怒鳴りました。
A子さんは音が鳴るたびにドアから伝わる振動が恐ろしくて声が出せず、ただただ隣のC子さんにしがみついていました。

ゴン

……

ゴン

先ほど何者かがドアを開けられなかった時のような、苛立ちや怒りを感じさせる音ではなく、もっと無機質で単調な鈍い衝撃音。

ゴン

窓の外は変わらず真っ暗で何も見えません。

「うえっ ひっく……」
ズズ……

嗚咽、鼻をすする音――

ゴン

「ひっ」

A子さんもB君もC子さんも、車の中央にできる限り身を寄せて、お互いの体の震えが伝わるほどに密着していました。

もう、嗚咽も悲鳴も、誰のものなのか、自分のものなのかすらよく分からなくなっていました。

ゴン

……

ゴン

…………

ゴン

十数回か、何十回か、数えていませんでしたが、しばらくすると、音の間隔がだんだんと長くなってきました。

ゴン

………………

いつの間にか、泣き声も悲鳴も聞こえなくなり――

ゴンゴンゴン!

ゴンゴン!

「大丈夫ですか!?」

激しく車を叩く音で、A子さんは跳ね起きました。
そこで初めて、自分が目を覚ましたことに気が付きます。

隣を見ると、B君とC子さんも驚いて目を覚ましたばかりという様子でした。
3人で顔を見合わせて、外が明るくなっていることにも気が付きます。

ゴンゴンゴン!

「大丈夫ですか!? 警察です! 開けてください!」

再び、A子さんの側のドアが激しく叩かれます。
窓の外には、確かに警察官の制服を着た人が立っています。
それでも不安で、A子さんはドアを開けることができませんでした。

「あの、何か――」
「ああ、よかった。お怪我はないですか?」

恐る恐る、A子さんが声を出すと、外の警察官は心底ほっとしたようでした。
その様子に安心して、ゆっくりとドアを開けます。

「あの、一体、何が……」
「昨夜、山のふもとにあるガソリンスタンドに強盗が入ったんです。そこの店員とお客さんが殺されましてね」
「えっ……」
「あなたたち、何か見ていないんですか?」

A子さんは、車を降りました。
車の周りには、石や植物とは全く違う異質な何かがたくさん転がっていました。
A子さんは、その転がっているモノが何なのか咄嗟に判断することができませんでした。

反対側のドアから、B君とC子さんも出てきて――

「きゃああ!」

C子さんが悲鳴を上げました。

転がっているのは、バラバラになった人間――先輩の体でした。

車の側面には赤黒くなった血がべったりと付いていました。

――ああ、あの音は、先輩の体が車に投げつけられていた音だったんだ――

昨夜、先輩はガソリンスタンドへ着いたときに、運悪く強盗と鉢合わせてしまいました。
それまで大人しくしていたガソリンスタンドの店員が、そのタイミングで強盗に抵抗を試みて、命を落としてしまいます。

命の危険を感じた先輩は、パニックになって自分の車まで走って逃げようと来た道を戻ってしまいました。
しかし、途中で追いつかれて殺されてしまいます。

犯人はそのまま山を登り、A子さんたちの乗っている車を見つけました。
「もしかしたら車の中の奴らは何かを見てしまっているかもしれない。全員殺して車を奪って逃げよう」そう思い、夜が明けるまで車のそばでドアが開くのを待っていたそうです。

もし、あの時、誰かが外を確認しに出ていたら――。
もし、先輩が車の鍵をB君に預けず、自分で持って行っていたら――。

***

その後、犯人は無事に逮捕されたそうです。
地元では有名な事件で、新聞にも載り、学校が取材を拒否したにもかからずサークルの部室前を記者がウロウロしていたのを覚えている、と母は言っていました。

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たくさんの視線 投稿者:喜多 加世

これは私が高校の帰り、友人とカフェで話していたときのお話。
 女子高生二人が喋っていると盛り上がり、声量も大きくなる。背後からの視線がちょっと痛い。

「あたし、どうしても蜘蛛が苦手なんだよね」

 テーマは苦手なものへと変わっていた。
 嫌いなわけではない、どうしても怖くて堪らないのだ。特に脚の長い種類が苦手だと彼女は言う。それには幼い頃に経験したことが原因だと言う。

 小さい頃、幼稚園くらいの頃かな。あたしの家には庭があった。縁側の前にはそこまで立派とは言えない池、その周りを彩るように岩や松が並んでいる。そこに巣を広げて蜘蛛は住んでいた。
 夕方になると戸締りを始める。縁側にも雨戸があるためそれを下げる。が、それは夕方外へ出て池の前から閉めなければいけなかった。それを行うのはまだ健康であった祖母の日課であった。ある日祖母は何を思ったのか幼いあたしを背負い雨戸を閉めに出た。その日までは蜘蛛なんてただ気色の悪い虫に過ぎなかった。
 雨戸を下ろす祖母の背中、あたしは何かの視線を感じて振り返ってしまった。
 そこにはぎょろりとした赤い瞳が、無数の赤い糸の上に乗りながらあたしを見つめていた。たくさんの大きな蜘蛛たちがあたしを、もしくは祖母をその両目で見つめていたのだ。そのときの感覚をまだ忘れられない、背中が凍っているようだった。しかし恐ろしいのに目を反らせなかった。あたしはまるで蛇に睨まれた蛙だった。見つめられている時間はすごく長く感じた。
 ガシャン、という雨戸を下ろす音であたしは我に返り泣きじゃくった。蜘蛛が怖い、と。しかし祖母は蜘蛛ごときで、と言い放った。そのときのあたしは大人はあんな恐ろしいものが平気なのか、とショックで仕方なかった。

「リフォームするまで暫くはその怖い池との付き合いが続いてね、祖母の日課があたしに回ってきたときは地獄かと思ったよ。外に出たら殺されるくらいの危機感があった。だから横着して家の中から雨戸を閉める方法を見つけ出した。それでもたくさんの蜘蛛はあたしを見つめていた」

 幼い頃にそんな体験をしたら誰だって嫌いになるだろう、と私は友人の話を聞きながら気分が落ち込んだ。

「そういえば巣を払ってもらったりはしなかったの?」
「お父さんに取ってもらったんだけど、なぜかその赤い糸の巣はずっと張ってあったんだ。それを言ったけど昼に蜘蛛の巣は全部取ったよ、と言われて…」

 幼い頃の幻覚か、もしくは勘違いだろうか、私はそうも思い始めていた。何かが赤い糸の巣を張る蜘蛛に見せているんだ、と。
 しかし。

「でね、最近気付いたの。赤い糸を持つ蜘蛛なんていないじゃない?」

 やはり勘違いか、そう思った。

「目玉が二つしかない蜘蛛なんて、いないじゃない?睨まないじゃない?しかもそんな大きな蜘蛛なんて…今じゃいないじゃない?なんでかな、とよくよく考えたらさ」

 そこから聞きたくなかった言葉を聞いてしまった。

「それって人の首だったんじゃないか、って」

 たくさんの人の生首が赤い糸に絡まり、吊るされ、晒されながらあたしを睨んでいたんだ。じゃああの八本脚は?と思っていたけどそれは絡まった髪の毛だったんだ。

 本当に聞きたくなかった。

 背筋がぞわぞわと何かが這う感覚がしながらもリフォームをした、と聞いたからその後の蜘蛛…だと思っていた首のことを尋ねる。

「リフォームしたときに池も潰してお祓いもしてもらったからもう見てないよ!」

 ただ今でも脚の長い蜘蛛を見るとそのことを思い出すから嫌だな、友人はそう言った。

 蜘蛛というのは家を守る役割もある。
もしかしたら本当にデカイ幽霊蜘蛛みたいなのが居て、友人の家に入ろうとする悪い霊…生首たちを捕らえていたのではないか。
そして“こういう奴らがいるぞ“、ということを彼女に教えていたのではないだろうか。

 私はそちらの可能性を考えたくなった。何故か?祓われた蜘蛛が可哀想だからだ。
そうでなかったら友人と私の背後で大きな両目で痛いほど見つめてくる奴らがこんなにたくさん居るはずがない。

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死者が叩くドアの音 投稿者:Mari

千日デパート火災を知っているだろうか。
 これは大阪府大阪市南区(現・中央区)千日前にあった千日デパートで起きた火災のことで、死者118人・負傷者81人という、大惨事だった。
 この火災が発生したのは1972年5月13日。今では跡地には家電店が建っている。

 その前に、1984年に商業施設が開業した。2000年に閉館することとなったのだが、閉館直前、俺は高校生で、怖いもの知らずだった。
 商業施設では、さまざまな怪奇現象が起きると評判だったから、俺は面白がって行くことにしたのだ。
 なんとなく暗い雰囲気がする建物だな、とは思った。だが、評判になっているように、霊の声が聞こえたり、ましてや霊が降ってくるなんていうことはなかった。
 千日デパート火災では、窓から飛び降りた人が複数出ていたので、商業施設や、その近辺では、霊が降ってくると噂になっていたのだ。

 商業施設を、一通りぐるっと回ってはみたものの、何も起きない。つまらないなと思って、帰ろうとしたが、どうしてもトイレに行きたくなった。しかも大のほうだ。
 帰る前のついでにと、何階だったかは忘れたが、個室のトイレに入った。
 すると、俺しかトイレにいる人間はいないはずだったのに、ドンドン、とトイレのドアが叩かれた。
「入ってます」
 そう言っても、ドンドン、とさらに相手はドアを叩いてくる。
 頭のおかしいやつなんだろうか? ……いや、もしかしたら、これこそが怪奇現象かもしれない。俺は、都市伝説でもよくあるような、こんな質問をしてみた。
「そちらには、何人いるんですか?」
 少し間があいたあと、ものすごい数、ドアが叩かれた。それこそ、人間には叩けないほどの数だ。
 これは絶対に怪奇現象だと興奮した俺は、おもいきって、こんな質問をしてみた。
「俺の寿命は、あと何日ですか?」
 どれだけ待っても、音は一回も聞こえてこなかった。

 そのあと、俺は上京し、家庭も持って、普通に生きている。結局、あの体験がなんだったのかは、よくわからない。
 ただ確かなことは、家電店のトイレでも、ドアを激しく叩かれるという怪奇現象が起きるという噂があるということだけだ。

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エアコン 投稿者:おのっち

2・3年ほど前の夏のことです。
朝突然ブレーカーが落ち家中が停電に。

夕方まで試行錯誤した結果、リビングのエアコンのコンセントを抜くことで復旧はしました。

そして翌日、知り合いの電気整備社員に診てもらったのですが、なぜかエアコンもブレーカーにも異常が見られず、しかもコンセントを差しなおしても問題なく動いたのです。

当時は電気の使いすぎということになりましたが、前日他の部屋でもエアコンを使っていたこと、今もエアコンが動くことを考慮すると何かがいたとしか思えません。

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